『SWEET BITTER SWEET』番外編 クリスマス

「ありがとうございました」
 自分の顔がいつもより三割は不機嫌そうに見えることを、霧島怜士は自覚していた。
事実、不機嫌である。
何が悲しくて、恋人と初めて迎えるクリスマスをバイトで潰さなければならないのだ。本来のシフトなら、霧島も翼も木曜は休みだ。だからクリスマスは二人で過ごせるはずだった。それなのに、急にシフトを代われと言われた。それも二人ともだ。
何が彼女とデートだ。何がクリスマススペシャルライブに当選しちゃったのー、だ。ふざけるな。きっちりと断ってやるつもりだったのに、お人好しの恋人があっさりと引き受けてしまった。翼がバイトに出るのなら、霧島だけが休んでも意味が無い。
「いらっしゃいませ」
 入ってきたのは男女二人連れだった。恋人同士なのだろう。男の腕に女が腕を絡め、やたらと密着して歩いている。狭い店内ではどう考えても邪魔だ。霧島は舌打ちしたいのをギリギリのところで堪える。
 バーコードをスキャンしながら、霧島はさらに不機嫌になっていく。スキャナーを持つ自分の手。正確には、袖。どうしても視界に入ってしまうそれは、普段のコンビニの制服ではない。浮かれた赤い色に、安っぽい白のファー。店長命令で着せられたサンタクロースの衣装は、微妙にサイズが合わなくて袖が足りていない。
「ねえ、霧島君」
 ドリンクの補充を終えた恋人が、レジカウンターの中に入ってくる。翼はトナカイの衣装を着せられていた。霧島と違って、こちらは可愛い。トナカイの角付きのカチューシャに小さな鈴がついていて、動く度にシャラシャラと音がする。小柄な翼にはよく似合っていた。
「何だか楽しいね。いつものバイトじゃないみたい」
 えへへと笑う翼に、霧島は眉根を寄せる。
 楽しい? 何が。
「こういう衣装って着たことなかったから、何だか楽しくって……、楽しくない?」
 言葉の最後は少し不安気だ。きっと霧島が仏頂面をしているからだろう。
「アンタは、よく似あってる。可愛いと思うよ」
 思わず口元が綻んだ。
「き、霧島君もカッコいいよっ!」
 顔を真っ赤にしながら翼が言う。両手で握り拳まで作っていた。
 ああ、こんなに可愛いものが見られたのだから、クリスマスのバイトも悪くはなかった。
「バイト終わったら、俺んち行こう。売れ残りのケーキとチキンでクリスマスしよう」
 そう提案すると翼はうんうんと頷いた。シャンシャンと鈴が鳴る。
「あれも買おうよ。シャンメリー」
「そうだな」
 家に帰って、チキンとケーキを食べてシャンメリーを飲んで。それからプレゼントを渡そう。翼に似合いそうな、可愛いチェック柄のマフラーを買ってある。
早く時間が経てばいい。
そう思った時だった。
「あと五時間もあるねー」
 時計を見ながら、翼が言う。
「早くクリスマスしたいね」
 こちらを向いて、翼がふんわりと笑った。
 ああ、その顔はダメだ。卑怯だ。
 霧島は柄にもなく赤面しそうになった。誤魔化すために手で口元を覆う。咳が出た振りをすると、翼が心配そうに霧島の服の袖を掴んだ。
「大丈夫? 風邪?」
「いや、ちょっと喉が乾燥してただけ。平気だよ」
 まだもう少し、カッコつけさせて欲しい。翼が好きな自分でいたい。
 平静を取り戻して、余裕たっぷりというふうに笑ってみせた。
「楽しみだな」
 それで今度は翼の頬がぱっと色づく。
 こういう反応が好きだ。可愛いと思う。

 だからもう少し、カッコいい俺でいさせて――。